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COLUMN

2023.07.07

グローバル・ミニマム課税(第1回)
CFC税制との関係(1)

はじめに

2024年4月1日以後開始会計年度から、その直前4年の会計年度のうち2以上の会計年度の連結売上が7億5,000万ユーロ(現時点の為替レートで約1000億円)以上の日本の連結親会社に対して適用されるグローバル・ミニマム課税税制(以下「当該税制」)は、2021年10月にOECD/G20のBEPS包括的枠組みにおいて2つの柱により、経済のグローバル化・デジタル化に伴い国際的な税の枠組みが多国籍企業のビジネスモデルに対応できないという問題(いわゆるBEPS問題)に対する解決策が国際的に合意されたことに伴い、2023年度税制改正において、法人税法第二編第二章「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」の第82条から第82条の10までの10の条文とそれらの細目等を定めた法人税法施行令、財務省令、及び、関連する地方法人税法の該当条文等として創設されました。
先月(2023年6月)、当該税制の細目等を規定する法人税法施行令、及び、財務省令が交付されましたので、今後このコラムにおいて国際最低課税額の具体的な計算方法とその留意点等について数回にわたり解説していきたいと思いますが、本コラムでは、筆者が懸念する当該税制と外国子会社合算税制(租税特別措置法第66条の6、以下「CFC税制」)の二重適用による潜在的な実質経済的な二重課税問題に触れ、その排除に係る課題について私見を述べたいと思います。

問題の所在

筆者が懸念する二重課税問題の具体例を下記の事例を引用して解説します。

事例

日本の連結親会社は、アイルランドにグループ内トレーディングを営む連結子会社を有しており、当該アイルランド子会社は中国において製造業を営む中国法人である連結子会社から製品を購入して欧州各国市場における再販売業を営む、英国、ドイツ、及び、イタリアの連結子会社へ販売している。当該アイルランド子会社は、国外関連者との取引価格についてはOECD移転価格ガイドラインに従い取引価格を設定しており、100の所得を計上し、アイルランドにおいて12.5の法人税を負担している。アイルランド子会社以外の海外子会社の実効税率は15%を超えており、かつ、CFC税制の適用は除外されている。日本の親会社の法人税実効税率を30%、アイルランド子会社はグループ内のトレーディングのみを行っているのでCFC税制上実質的活動を伴わない外国子会社に該当しCFC税制の適用除外にはならないと仮定する。

上記事例において、日本の親会社は、アイルランド子会社について当該税制とCFC税制の適用を受けるので、当該税制により2.5(簡便的に計算:15-12.5)の国際最低課税額が発生し、同時にCFC税制(外国税額控除を適用後)により17.5(簡便的に計算:30-12.5)の納税が日本において発生します。アイルランド子会社の所得100に対して、日本とアイルランド両国において合計32.5の法人税負担になり、実質経済的には2.5の二重課税(所得に対して日本で2回課税される状況)が日本において生じます。

二重課税排除に係る課題

上述のように当該税制とCFC税制の二重適用により実質経済的には日本において二重課税が発生しますが、税制の枠組み・仕組み上、その排除には以下の課題や限界があると考えます。

  1. 実質的な二重課税であって直接的・形式的な二重課税ではないこと
  2. CFC税制は租税特別措置法により法人税本法とは別に実体のない外国子会社に所得を移転させる経済行為に対するいわば懲罰的に広く個人、法人に対して課税する特別法であること
  3. 当該税制では国際最低課税額の確定申告の申告期限が事業年度終了後1年3カ月(適用初年度は1年6か月後)であるところ、CFC税制では日本の親会社の事業年度終了後2から3カ月後に外国子会社の所得合算課税が発生すること

おわりに

今回のコラムでは、当該税制とCFC税制の同時適用により実質経済的に外国子会社の所得に対して日本において2回の法人税課税が発生する可能性と、その排除における課題・限界について私見を述べました。
その課題・限界と、当該税制が従来のCFC税制を補完することについて、次回のコラムにおいて解説します。